矢野経済研究所は、国内FinTech市場を調査し、現況、領域別の動向、および将来展望を明らかにした。

<FinTech(Financial Technology)および FinTech(フィンテック)市場とは>
FinTech(フィンテック)とは金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語である。従来の金融機関では提供できなかった領域においてIT技術を活用して提供する金融サービスを意味する。

本調査におけるFinTechは次のように分類し、「ソーシャルレンディング(融資)」「クラウドファンディング」「投資・運用サービス(投資・運用、情報提供)」「ペイメント・決済」「ブロックチェーン(プラットフォーム、仮想通貨​)」「企業会計(クラウド型会計ソフト、会計・経理クラウドサービス)」「家計簿・経費精算アプリ(家計簿・資産管理、経費精算)」「金融機関向けセキュリティサービス」の8領域を対象とする。

​国内FinTech市場規模は従来の金融機関が提供していない、革新的なサービスやその基礎技術を提供するベンチャー企業に焦点を当て、当該ベンチャー企業の売上高ベースで算出している。

<市場に含まれる商品・サービス>
ソーシャルレンディング(融資)、クラウドファンディング、投資・運用サービス(投資・運用、情報提供)、ペイメント・決済、ブロックチェーン(プラットフォーム、仮想通貨)、企業会計(クラウド型会計ソフト、会計・経理クラウドサービス)、家計簿・経費精算アプリ(家計簿・資産管理、経費精算)、金融機関向けセキュリティサービス

1.市場概況

2016年度の国内FinTech(フィンテック)市場規模(FinTech 系ベンチャー企業売上高ベース)は、9,050 億9,000万円であった。FinTech が盛り上がりを見せるなか、法律的・技術的・物理的環境の整備が進んでいる。

まず法的な環境として、銀行法の改正に伴い、全金融機関が2018 年3 月までに「電子決済等代行業者との連携及び協働に係る方針」を打ち出した。また、政府においてプロジェクト型の「規制のサンドボックス(砂場)※1」を創設した。AI (人工知能)やブロックチェーン※2などを対象としており、期間限定とすることでより迅速に、且つ大規模な実証実験を進める環境が整いつつある。

次に技術的な環境について、API(Application Programming Interface)の公開方針を打ち出したことで今後、2020 年度にかけて各金融機関がAPI の接続にあたっての体制整備や接続基準などを決めていくこととなる。API の整備に際してはIT 投資が新たに必要となるなか、金融機関にメリットがなければ、API の連携を積極的に推進していく方向にはならないものとみる。今後、API の公開に即したビジネスモデルの構築を進め、銀行とFinTech 系ベンチャー企業が相互にメリットを享受できる関係性を模索していく必要がある。

​さらに物理的な環境として、大手町や兜町など、都内にあるFintech産業拠点のリニューアルオープンや新規オープンが相次いだ。各施設ではミートアップ(私的な会合形式のビジネスマッチング)を積極的に開催しているほか、海外のFinTech 拠点とのパートナーシップ締結を進めており、FinTech系 ベンチャー企業のグローバル進出を後押しするなど存在感を高めている。

※1. サンドボックスとは、革新的な事業やサービスを育成する上で、現行法の規制を一時的に停止する仕組みで、 所管官庁に届け出て、相談の上、試験的に事業を進める手法
※2. ブロックチェーンとは利用者同士をつなぐ P2P(ピアツーピア)ネットワーク上のコンピュータを活用し、権利移転取引 などを記録、認証するしくみ

2.注目トピック

ブロックチェーン(プラットフォーム/仮想通貨)の急拡大
プラットフォーム領域は、2017 年度は実証実験が続くため市場規模の伸びは限定的であるとみる。しかし、最近では本番環境での実施を見据えた実証実験なども出てきているほか、「規制のサンドボックス(砂場)」など市場環境が整いつつあり、今後、ブロックチェーンを活用した国内での大規模な実証実験も出てくることが期待される。また、今後スマートコントラクト(契約の自動化)などの活用が出てくるほか、SDK(ソフトウェア開発キット)の提供によるアプリケーション開発が活発化し、市場の伸びに寄与するものとみる。

一方、仮想通貨の領域は、急速な成長を遂げるなか、金融庁の指導・監督により健全な市場へと成長していくことが期待できる。また、ICO (Initial Public Offering:仮想通貨による資金調達手法)が登場し、新たな資金調達への期待が高まる半面、課題も指摘されており、普及に際しては投資家が投資の可否を判断しやすい環境整備が急務と考える。

3.将来展望

​ソーシャルレンディングやクラウド型会計ソフトに加えて、今後はプラットフォーム領域ではスマートコントラクトなどの活用が出てくるほか、SDK の提供によるアプリケーション開発の活発化に加え、海外で増えるブロックチェーンの活用事例なども踏まえ、国内でも商用事例が出てくるものとみる。またAPIを介した金融機関との協業や「規制のサンドボックス」制度を活用した大規模な実証実験が相次ぐなど、支援環境を積極的に活用した取組みが増えてくることが期待される。

こうした官民一体となった支援体制の積極的な活用により、2021 年度の国内FinTech(フィンテック)市場規模(FinTech 系ベンチャー企業売上高ベース)は1 兆8,590 億円に達すると予測する。

現状ではある程度、領域ごとに区分けされているが、今後は領域ごとの協業が始まり、領域間での融合が起こると考える。ベンチャー企業の多くは、現状の領域に留まることは考えておらず、領域間を跨った事業を展開していく傾向にある。本調査では8 領域に分けたが、今後、こうした領域自体も変化していくことが予想される。

調査概要


調査期間: 2017年11月~2018年6月
調査対象: 金融機関、SIer、FinTech系ベンチャー企業
調査方法: 当社専門研究員による直接面談取材、電話調査および文献調査などを併用

詳しいリサーチ内容はネタ元へ
[矢野経済研究所]
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