ジェトロは2017年9~10月、欧州に進出している日系企業に対し、経営実態に関するアンケート調査を実施しました。調査結果を以下のとおり発表します。

欧州進出日系企業実態調査の結果のポイント

・欧州の景気回復に伴い、在欧日系企業の「黒字」割合が年々増加している。ただし、「黒字」の割合について、在英日系企業と在英を除く在EU日系企業との差異が拡大。進出国の景気見通しでも在英日系企業では「やや悪化」が3割を超えた。在英日系企業、在英を除く在EU日系企業ともに、「英国経済の不振」が英国のEU離脱における懸念として最上位となった。また、「英国の規制・法制の変更」が2番目の懸念事項に挙がり、中でも「関税」の回答割合が在英、在EUの日系企業でともに高かった。

・英国がEU単一市場・関税同盟に残留せず、英国・EU間で通関手続きが発生する場合、関税率が0%だったとしても、約6割の在英日系製造業が英国のEU離脱日から1年以上の移行期間が必要と回答した。在英日系製造業では、英国からの平均調達率が2割以上である一方、英国を除くEUからの平均調達率も2割近くあり、英国・EU間の取引に関税が課される場合には、サプライチェーンの見直しに繋がる可能性が高い。

・英国のEU離脱に備え、拠点の見直しを実施・検討している在英日系企業54社のうち、約6割が「販売」機能を、約5割が「統括」機能の見直しを実施・検討していることが明らかになった。また、同回答企業の8割以上が該当機能の「一部移転」を、2割弱が「全部移転」を挙げた。移転先候補国としては、「ドイツ」が23社と最多で、「オランダ」(6社)が続いた。

・今年7月に大枠合意した日EU・EPAについて、「メリット大」とする回答割合が前年比16.5ポイント増の54.3%に達し、最終合意を前に利用への期待が高まっている。特に、在中・東欧日系企業で約7割が「メリット大」と回答している。理由として、「関税削減・撤廃(日本からの輸入)」を挙げる企業が8割近くに達した。

・在欧日系企業にとって、前年に最大の経営課題だった「欧州の政治・社会情勢」はカタルーニャ州の独立問題や、英国のEU離脱交渉の先行き不透明感から、引き続き2番目の課題となった。これを押しのけて最大の問題に浮上したのが「人材の確保」で、回答企業の6割以上を占める英国、ドイツ、オランダ、中・東欧諸国での労働市場の逼迫に起因しているとみられる。

【調査結果概要】

営業利益見通しと進出国の景気見通し:
営業利益見通しは高水準を維持、英国の景気見通しに「やや悪化」の懸念

・直近6年間の営業利益見通しの推移をみると、欧州全体の「黒字」の割合が年々増加している。2017年の営業利益見通しは「黒字」が75.0%、「均衡」は13.4%、「赤字」は11.5 %であった。在英日系企業のみで2017年の数値をみると、「黒字」が71 .6%で、在英を除く在EU日系企業(76.6%)とは5.0ポイント差となり、前年の3.1ポイント差から差異が拡大した。(6、7頁)

・2018年の営業利益見込みは、前年との比較で「横ばい」の割合が48.2%と最も大きく、「改善」が42.7%、「悪化」が9.1%であった。「悪化」と回答した企業の割合が1割を下回った。業種別にみると、「改善」の回答企業数が多く、割合が高い業種は「食品/農林水産加工」(14社、66.7%)、「ホテル/旅行/外食」(12社、63.2%)だった。後者については、2017年の営業利益見込みでも、15社(78.9%)が前年比で「改善」としており、その理由として、「日本からの旅行客の増加」を複数の企業が挙げた。(8、9頁)

・前年と比較した2018年の営業利益見込みについて、景況感を示すDI値でみると、在英日系企業のDI値(23.9ポイント)は在チェコ日系企業に続き、下から2番目だった。進出国の景気見通しに関する設問でも、英国では「やや悪化」(33.5%)との回答比率が他国と比べて圧倒的に高く、英国のEU離脱に向けて、景気減速への懸念が高まっていることが伺える。(11、13頁)

経営上の問題点:
「人材の確保」が最大の課題に浮上、一部の国では引き続き「政治・社会情勢」が最大課題

・経営上の問題として、前年2番目に回答比率が高かった「人材の確保」(51.7%、前年比3.9ポイント増)が最大の課題に浮上した。回答企業数全体の65%を占めるドイツや英国、オランダ、中・東欧諸国での労働市場の逼迫が、人材確保を最大の経営上の問題に押し上げた。また、国別でみると、「人材の確保」の回答比率が高いハンガリー(85.7%)、デンマーク(83.3%)、チェコ(68.4%)では、製品・サービスの高付加価値化・差別化のために、「技術者の人材育成強化、増員など」に取り組む企業の割合も高く、また、デンマーク、ポーランド(69.0%)、チェコでは、過去1年間の現地従業員数を「増加」させた企業の割合が高かった。(15、19、23、24頁)

・前年に最大課題だった「欧州の政治・社会情勢」(48.8%)は0.9ポイント増と、回答比率がさらに上昇したが、「人材の確保」の伸び率に及ばなかった。2017年は主要国での選挙を乗り越えたものの、個別事情で、この項目の割合が大きく上昇した国もあり、全体の回答比率がわずかに押し上げられた。中でも、カタルーニャ州の独立問題で緊張が高まったスペイン(82.9%)、EU離脱交渉が始まった英国(64.7%)で最大の課題となった。(15、19頁)

・前年に第2番目の課題であった「不安定な為替変動」(30.9%)は16.9ポイント減と大きく減少した。2016年比で為替の変動幅が縮小したことが背景にある。また、新たに設けた「EU一般データ保護規則(GDPR)」(26.3%)は、2018年5月からの適用開始を控え、第9位の経営上の問題として認識され、特に、在ベルギー日系企業では最大の課題となった。(15、20頁)

・中・東欧全体では、「労働コスト上昇率の高さ」(74.7%)が前年比34.9ポイント増で最大の課題となった。2016年の名目賃金上昇率は、ブラチスラバ、ワルシャワ、プラハで前年比3%台、ブダペストやブカレストでは7~9%台だったことが日系企業の経営においても課題として受け止められている。(17頁)

今後1~2年の事業展開と将来有望な販売先:
在英日系企業の事業「拡大」比率が徐々に低下、ドイツが最も有望な販売市場に

・今後1~2年の事業展開の方向性として、「拡大」が51.2%、「現状維持」が45.1%、「縮小」が3.1%、「第3国(地域)へ移転・撤退」が0.6%であった。国別にみると、イタリア、ポーランドで「拡大」の割合が前年に引き続き70%以上だった。英国で「拡大」(34.7%)と回答した割合は前年調査より1.8ポイント低下し、スイス(22.2%)に次いで低かった。(25、26頁)

・英国のEU離脱に向けた動向は、欧州全体の今後1~2年の事業展開の方向性にはまだ大きく影響していない。在英日系企業(特に非製造業)での「拡大」の割合が低下する一方、「縮小」の割合が5.7%と前年からわずかに上昇した。「縮小」の理由として、「英国のEU離脱(ブレグジット)の影響により、一部業務のEEA(欧州経済領域)への移転を検討中」といった回答がみられた。(26頁)

・拡大する機能として「地域統括機能」を選択した企業数が多い国順でみると、英国は第3位(8社)であり、前年(9社)より1社減った。EU離脱の是非を問う国民投票が実施された前年の2015年には19社で最多だったが、2016年以降、「地域統括機能」を拡大しようとする在英日系企業数は10社を下回っている。同国のEU離脱決定が影響しているとみられる。(31頁)

・将来の有望な販売先として、2014年以降、「トルコ」「ロシア」を選択する回答企業数及び比率が低下する一方で、「ドイツ」を筆頭に、西欧、中・東欧の国々を選択する回答比率が増加傾向にある。EUの対ロシア経済制裁や、トルコの政治情勢、欧州の景気回復などを背景に、欧州が販売先として見直される傾向にある。(32頁)

英国のEU離脱への対応:
影響は「為替変動」から「関税」「規制・法制の変更対応」「英国経済の不振」等へ

・英国のEU離脱による今後の事業への影響は、欧州全体では「影響はない」(28.2%)と「マイナスの影響」(26.9%)の回答比率が拮抗している。これまでの影響と比べ、「影響はない」が37.9ポイント減と大きく減り、「マイナスの影響」が12.8ポイント増と増え、影響がより顕在化するのは、これからと言える。国別にみると、「マイナスの影響」との回答比率は英国(46.9%)が最も高く、チェコ(36.8%)、 ポーランド(36.7%)が続いた。在英日系企業からは、今後の「マイナスの影響」として、これまで挙げられた「為替変動」「ポンド安による輸入価格上昇」に加え、「関税」「人材確保」「規制、法制度 変更への対応」などが、在英を除く在EU日系企業からは、「関税」「輸出入処理の煩雑化」「EU・英国間の貿易制度の変更」などの回答が挙がった。なお、在英日系企業のこれまでの影響では、「プラスの影響」(5.7%)も最も高く、「ポンド安による輸出の増加」などが理由に挙げられた。(35、36頁)

・在英日系企業、在英を除く在EU日系企業ともに、「英国経済の不振」 「英国の規制・法制の変更」が回答割合の高い上位2懸念として挙がったが、在英日系企業の回答比率の方がいずれも20ポイント程度高い。「英国の規制・法制の変更」で懸念する分野としては、在英日系企業、在英を除く在EU日系企業ともに「関税」の回答割合がそれぞれ62.4%、72.2%と最も高かった。在英日系企業では、在英を除く在EU企業に比べ、「個人データ保護」の割合が17.8ポイント高く、特に懸念が大きい。(37、38頁)

・在英日系企業が英国のEU離脱に備え、拠点の見直しを実施・検討している機能の回答割合は「販売」機能(57.4%)が最も高く、「統括」機能(48.1%)、「生産」機能(20.4%)が続いた。実施・検討している対応としては、回答企業の8割以上が一部移転(85.2%)を、2割弱が全部移転(16.7%)を挙げた。拠点の見直しに関し、移転検討中、あるいは移転の可能性のある国名として、在英日系企業のうち、23社が「ドイツ」を、6社が「オランダ」を、各2社が「アイルランド」「フランス」「イタリア」「ベルギー」を挙げた。(40頁)

・英国がEU単一市場・関税同盟に残留しない場合の必要な準備・対応について、在英日系企業、在英を除く在EU日系企業ともに、「特段の準備・対応は必要ない」と回答した比率が最も高く、それぞれ31.9%、43.1%だった。通関手続き導入への対応(関税が0%の場合も含む)が続いた(42頁)

・残留しない場合の対応に必要な移行期間について、「通関手続き導入への対応(関税率が0%の場合も含む)」には、在英日系企業の50.0%、在英を除く在EU日系企業の73.9%が「離脱日までに対応可能」と回答した。「物流ルートの見直し」については、「関税率が発生する場合」 には「関税率が0%でも通関手続きが発生する場合」よりも、とくに在英日系製造業で準備・対応に2年以上の移行期間を必要とする回答比率が高かった。「英国の新たな基準・認証への対応」について、在英の非製造業では製造業に比べ、在英を除く在EUの製造業では非製造業に比べ、離脱日から1年以上の移行期間を必要とする回答比率が高かった。(43、44、45頁)

EPA/FTAのメリットと現地調達:
過半数以上の回答企業が日EU・EPAのメリットに期待、在英日系製造業は約2割をEUから調達

・EUが交渉を進める経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)の影響については、2017年7月に大枠合意した日EU・EPAについて「メリット大」とする回答割合(54.3%)が最も大きく、回答企業数(400社、107社増)が前年から大きく増加した。特に、中・東欧では「メリット大」(70.4%)とする回答割合が高く、その中で非製造業に絞ると、77.3%に達しており、特に期待が大きい。また、「メリット大」を選んだ理由として、「関税削減・撤廃(日本からの輸入)」を挙げる企業数が最も多く、303社(78.5%)に達した。(48、49、51頁)

・英国のEU離脱後の、将来的な日英EPAの可能性については、「メリット大」とする回答割合は欧州全体で14.3%に留まった。在英日系企業に絞った場合でも、「メリット大」の割合は26.7%で、日EU・EPA(45.1%)の割合と比較しても低かった。在英日系企業においても、日EU・EPAのメリットの方が日英EPAより高い結果が示された。(48頁)

・在EU日系製造業の部品・原材料の調達先(国・地域別)について、各回答企業の回答(金額ベース)の平均を算出した。「日本」からの平均調達率は前年比2.2ポイント増の31.2%に達しており、日EU・EPAの締結により、輸入時の関税が削減・撤廃されれば、そのメリットは大きい。非製造業を含めた在EU日系企業の全業種における「日本」からの平均調達率は34.4%(前年比2.2ポイント増)でさらに高く、日EU・EPAの効果がより一層期待される。(52、53頁)

・在英日系製造業では、英国からの平均調達率が25.2%である一方、英国除くEUからの調達率も18.4%あり、英国のEU離脱により英国・EU間の取引に関税が課されることになる場合にはその影響が懸念される。(52頁)


【調査概要】
・調査方法・実施時期:アンケート調査・2017年9月25日~10月23日
・アンケート送付先:欧州進出日系企業1,154社(回答企業数952社、有効回答率82.5%)
・質問項目:(1)営業利益見通しと進出国の景気見通し、(2)経営上の問題点、(3)今後1~2年の事業展開と将来有望な販売先、(4)英国のEU離脱への対応、(5)EPA/FTAのメリットと現地調達など

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[ジェトロ]
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