M&Aサーベイ~M&Aによる価値創造およびそのキーファクターに関する調査~ 

2015年06月03日
KPMG FASは、M&Aによる価値創造の成果とそのキーファクターとを関連付けて明らかにすることを目的として、東京工業大学 井上光太郎教授の協力の下、“M&Aサーベイ-M&Aによる価値創造およびそのキーファクターに関する調査”を実施致しました。

本レポートは、上場企業のM&A担当者からのアンケートへの回答及びインタビュー結果に基づき、東京工業大学 井上教授の有するM&A実証研究の知見も交えながら、PMI(M&A後の統合作業)を含むM&Aの取組み全体とM&Aの成功との関係に着目して分析することにより、日本企業におけるM&Aの実態と今後注力すべき課題を明らかにしています。

【エグゼクティブサマリー】

M&Aに「成功した」と回答した企業は39%

本調査において、M&Aに「成功した」と断言している回答は39%であり、これは一般に言われている3割~4割の成功確率と整合している。しかしながら、「どちらかというと成功した」を含めると約8割に達しており、一般的にいわれるM&Aの成功確率よりも高い。
一般的なM&A分析において成功か否かの判断に用いられるのは「株価」である。KPMGの2008年版グローバルM&Aサーベイにおいても、「企業価値が増大したか否か」の問いに対し、企業担当者の93%が「増大した」と回答する一方で、株価パフォーマンスの分析において「増大した」企業は27%であり、このような乖離は10年間(1999年~2008年)埋まることはなかった、と報告されている。

シナジーを数値化して価格に織り込んだ企業は31%

本調査では、シナジー価値を価格に織り込んだ企業は31%と少なかった。不確かなシナジー価値を買収価格に反映したくないという慎重な日本企業の投資姿勢と、シナジーを織り込まない低い価格でも価格交渉が成立してきたことなどの背景が影響していると考えられる。
一方で、本調査によれば、30%以上の買収プレミアムをのせた価格でM&Aを行った企業のうち約4割はシナジー価値以外を根拠としてプレミアムを決定している。競争的な環境下では、戦略的な価格を提示せざるを得ない、といった実務上の背景もインタビューにて垣間見られた。

内部留保活用のM&Aに対して市場は無条件に好評価を与えない

本調査では、内部留保による現金を対価とするM&Aが69%を占めていた。この理由として、過半数の回答者が「現金の活用が課題であった」と回答しており、インタビューでは外部からのプレッシャーもあったとの声も聞かれた。
一方、井上教授によれば、内部留保活用を目的としたM&Aに対して、日本の株式市場の評価は平均して0%(1株当たり株主価値の増大効果は統計上確認できない)であり、借入等の外部資金調達を伴ったM&Aよりも、その評価は低いとのことである。余剰現金の使途としてのM&A活用に対して、市場は必ずしも楽観的ではないことが伺える。

シナジーの分析結果の活用が、PMI(Post Merger Integration)を通じてM&A全体の成功にプラスの影響を与えている可能性が高い

本調査では、シナジー分析への取組みに満足している場合、そのM&Aの成否やPMIの達成度に対してプラスに働く傾向にあることが明らかとなっている。一方で、M&Aプロセスにおける「より重視すべきであった取組み」として、「シナジー分析」を挙げている企業が多く(国内案件の53%、海外案件の32%)、取組みに課題を抱えている企業は多いと推察される。
なお、KPMGのグローバルM&Aサーベイにおいても、目標とするシナジーの達成度合いが高い企業ほど、市場からもM&Aが成功したと評価される傾向にあることから、シナジーを分析し、達成すべき目標として掲げることの重要性が示唆されている。

「企業文化の違い」をPMIの障害と考える企業は多い。この障害を克服するキーファクターは、「トップマネジメント」や「統合推進チーム」の存在であるようだ。

本調査において、企業文化のなかでも、特に「ビジネス慣習の違い」や「意思決定プロセス」の違いがPMIの障害になったと回答した企業は多い。一方、分析結果をみると、これらの障害が必ずしもM&Aの成否に影響しているとは言えないことも示されている。
PMIにおいては、むしろ「統合推進チーム」がいかに権限とリソースを有しているかといった問題の方が、M&Aの成否に影響を与えている可能性が高いようだ。また、井上教授によれば、「トップマネジメント」のコミットメントにより「PMIが成功した」と回答している企業は、株価パフォーマンスの分析においても「M&Aが成功している」といった結果が得られているとのことである。
なお、インタビューにおいて複数の企業に、M&A後の被買収企業へ派遣する人材が不足しているといった苦悩が垣間見られた。

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