2016年度 欧州進出日系企業実態調査(欧州進出日系企業対象) 

2016年12月05日
ジェトロは2016年9~10月、欧州に進出している日系企業に対し、経営実態に関するアンケート調査を実施しました。調査結果を以下のとおり発表します。

【調査結果概要】

(1)業績見通し
営業利益見通しは高水準を維持、在英日系企業の2017年の見通しに減速の兆候


・直近5年間の営業利益見通しの推移をみると、欧州全体の「黒字」の割合が年々増加している。2016年の営業利益見通しは「黒字」が72.7%、「均衡」は14.8%、「赤字」は12.6%であった。在英国日系企業のみで2016年の数値をみると、「黒字」が70.4%で、前年の調査結果から0.7ポイント低下し、欧州全体とは差異が生じている。【図表1、2】

・2017年の営業利益見込みは、前年との比較で「横ばい」が45.0%、「改善」が43.0%、「悪化」が12.0%であった。約半数の企業が「横ばい」と見ている。「改善」すると答えた企業の割合は、国別ではスロバキアが85.7%で最も高かった。他方、ギリシャが14.3%と最も低く、英国が31.6%で続いた。【図表8、12】

・調査年と比較した翌年の営業利益見込みの推移において、直近5年でみると、在英国日系企業は在欧州日系企業全体と同じ傾向を示してきた。しかし、2017年の営業利益見込みはEU離脱の国民投票結果を受け、前年との比較で「改善」を選択した割合が前年比9.1ポイント減と大幅に減少、「横ばい」の比率が3.8ポイント増となった。【図表15】


(2)経営上の問題点
「欧州の政治・社会情勢」が最大の課題に浮上、中・東欧で高まる欧州企業との競合


・経営上の課題として、前年に第4位であった「欧州の政治・社会情勢」(47.9%、前年比12.9ポイント増)が最大の問題に浮上した。EU懐疑主義やポピュリズムの台頭による政治の先行き不透明性に加え、テロ・移民問題などによる観光客の減少とそれに伴う消費への影響懸念が背景にあるとみられる。特に、非製造業で約半数(50.2%、前年比13.1ポイント増)の企業が「欧州の政治・社会情勢」を問題点として挙げた。【図表16】

・「不安定な為替変動」(47.8%、同13.5ポイント増)は前年の第5位から第2位に浮上した。英国のEU離脱が大きく影響しているとみられる。特に製造業では最大(51.4%、同12.2ポイント増)の課題となった。「人材の確保」(47.8%、同4.4ポイント増)は、前年に続き第2位(「不安定な為替変動」と同率)だった。【図表16】

・在英国日系企業における経営上の課題として、「不安定な為替変動」(59.8%、前年比18.1ポイント増)、「欧州の政治・社会情勢」(55.0%、19.9ポイント増)が上位2項目に浮上した。「景気低迷、市場縮小」が直近4年の調査結果をみると、年々順位を下げていたが、2016年に16.3ポイント増の39.5%を記録、第5位に再浮上した。英国のEU離脱による景気への影響を不安視する見方が強まったとみられる。【図表19】

・特に、中・東欧の非製造業で問題視されている「新たな競合企業の出現」(欧州全体で32.4%、中・東欧の非製造業で39.6%、図表16、18)について、具体的な国籍を聞いたところ、欧州全体では、中国企業が57.1%(前年比1.3ポイント増)で最多だった。欧州企業が44.5%(4.5ポイント増)、韓国企業が21.0%(1.6ポイント減)と続いた。中・東欧では新たな競合企業として、欧州企業の比率が76.3%と特に高い。【図表21】


(3)今後1~2年の事業展開と将来有望な販売先
今後の事業展望において、英国のEU離脱の影響はまだ限定的、有望な販売先としてドイツが浮上


・今後1~2年の事業展開の方向性として、「拡大」が50.6%、「現状維持」が45.4%、「縮小」が3.3%、「第3国(地域)へ移転・撤退」が0.7%であった。特に、中・東欧の非製造業において「拡大」の割合が、2015年調査結果の56.3%から15.1ポイント増え、71.4%となった。国別にみると、ポーランドで「拡大」の割合が80.6%と最も高く、ギリシャが14.3%で最も低かった。英国は36.5%でギリシャに続いて低かった。【図表24、25】

・英国のEU離脱の国民投票結果は、今後1~2年の事業展開の方向性にはまだ大きく影響していない。製造業では、リーマンショックの影響が2009年の回答に与えたような大きな影響はみられない。 ただし、拡大する機能として「地域統括機能」を選択した企業の割合が多い国順でみると、英国は第6位(8.7%)であり、前年調査の第2位(18.6%)から大きく後退した。日系企業の地域統括戦略には影響が出始めている。「英国のEU離脱(ブレグジット)による本社組織の移転検討」といった回答も既に一部にみられる。【図表26、27、28、33-1、33-2】

・将来の有望な販売先として、前年首位のトルコが2位に後退し、ドイツが首位に入れ替わった。経済制裁が解除されたイランが前年の19位から10位に急浮上した。前年8位だった英国はEU離脱の影響もあってか、10位圏外に後退した。【図表36】


(4)英国のEU離脱への対応
多くの企業が「規制、法制度の変更」、「為替リスク」への対応を検討課題に


・英国のEU離脱を受け、現在または今後対応を検討する可能性のある内容として、在英国日系企業のうち、製造業では「為替リスクへの対応」(64.0%)、非製造業では「規制、法制度の変更への対応」(53.9%)と回答した企業の割合が最も多かった。これらの項目に加え、製造業では、「サプライチェーンの見直し」(36.0%)、「物流ルートの見直し」(23.7%)、「製品・サービス価格の見直し」(22.8%)の回答比率が20%を超えた。在英国日系企業からは、「EU域内への移転を検討」、「統括拠点の立地国の再検討」といった回答もみられた。【図表40】

・在英国日系企業を除く在EU日系企業では、製造業では「わからない」(41.6%)、非製造業では「為替リスクへの対応」(36.4%)と回答した企業がそれぞれ最多だった。非製造業では、「規制、法制度の変更への対応」も31.8%と高かったが、在英日系企業と比べると回答比率に差異がある。【図表40】

・在英国日系製造業では、10.5%の企業が「製造体制の見直し(縮小)」を回答した。「販売体制の見直し(強化)」を回答した企業の割合は、「在英国日系企業」(7.9%)の方が、「在英国を除く在EU日系企業」(6.3%)より多かった。【図表40】


(5)EPA/FTAのメリットと現地調達
日EU・EPAの締結による関税削減・撤廃で、欧州での価格競争力の向上を期待


・EUが交渉を進める経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)の影響については、37.8%(前年比2.9ポイント上昇)が「メリット大」と回答した日・EU EPAへの期待が他のEUのEPA/FTAに比べて高い。特に、中・東欧では「メリット大」とする回答が46.3%、その中で製造業に絞ると、54.8%に達しており、期待が大きい。理由として「価格競争力の向上」を挙げる回答が多かった。【図表42】

・在EU日系製造業の部品・原材料の調達先(国・地域別)について、「日本」からの調達が29.0%に達しており、日・EU EPAの締結によりこれらの関税が削減・撤廃されれば、そのメリットは大きい。非製造業を含めた全業種における「日本」からの調達比率は32.2%でさらに高く、同EPAの効果が一層期待されている。【図表44、45】



【調査概要】
調査方法・実施時期:アンケート調査・2016年9月20日~10月18日
アンケート送付先:欧州進出日系企業1,403社(回答企業数1,000社、有効回答率71.3%)

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[ジェトロ]
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