2016年海外旅行の現状についての調査(15~79歳の男女対象) 

2016年09月09日
JTB総合研究所は、「2016年海外旅行の現状について」の調査研究をまとめました。当社は生活者の消費行動と旅行に関する調査分析を多様な視点で継続的に行っています。

日本の海外旅行市場は1964年の海外渡航自由化以来50年以上の歴史の中で旅行者数を拡大してきました。しかし世界を見渡すと、日本人の出国率は、台湾、韓国などの近隣諸国の出国率より低く、特に国内旅行より海外旅行志向の強い韓国人の2015年の海外旅行者数は1931万人と、人口が倍以上ある日本よりも多い結果となっています。

近年、主要国際空港のある首都圏、京阪神、東海以外の県からの日本人海外旅行者数は減少傾向にあります。なぜ地域からの海外旅行者は伸びないのでしょうか。また海外旅行に行かないと言われている若者、そして消費に期待のかかるシニア層に動きの変化はあるのでしょうか。

現在、国の観光政策として多くの外国人旅行者を迎えるために、様々な基盤整備が進んでいます。特に日本の地域を知ってもらうことは観光政策の大きな目標の1つです。訪日インバウンドも世界市場における海外旅行者と考えれば、観光客を受け入れる側も海外旅行の経験により見聞を広げることで、地域の魅力づくりや観光受容度、競争力をあげることに活かせるはずです。

日本旅行業協会(JATA)では20年までに海外旅行者を2000万人まで引き上げる目標を掲げていますが、少子高齢化が急速に進む中、個人の消費マインドの低迷や、時代の流れの中で価値観やライフスタイルの多様化を踏まえるとかなり高い目標と言わざるを得ません。

本文ではオープンデータやJTBレポート、独自の調査から検証してみます。

【調査結果概要】

・海外旅行に行く人の一人あたりの年間回数は1.7回。2000年から変わらず

・2016年に海外旅行の予定回数が最も多いのは20代男女と60代男女

・5日以上の連続休暇が取れるかが海外旅行の回数に影響  東名大以外のその他地域では不定期休みが多く、長期休みが取りにくい

・2016年の海外旅行者数は約1700万人(4.9%増)の見込み


【調査結果】

<はじめに ~2000 年以降の海外旅行の現状~>
1.海外旅行の一人当たりの平均回数は 1.7 回と 2000 年から変化はほとんどない
実質海外旅行者数は 2015 年で 1039 万人、実質出国率は 8.2%と推計。10 人に 1 人も海外旅行に行かない現状


最初に、2000 年以降の海外旅行の動きとして1年間の一人当たりの平均旅行回数(ビジネス含む)の変化を当社の海外旅行実態調査より算出しました。その結果、2000 年から 14 年まで 1.7 回/人、2015 年は 1.6 回/人と、旅行に行く人の平均回数はほとんど変わらず推移していることが分かりました(図1)。性年代別で回数が全体の平均値より多かったのは、40 代男性の 1.9 回/人、50 代男性 2.0 回/人、60 代男性 1.9 回/人となり、グローバル化によるビジネス出張が増えたことと関係があると考えられます。20 代男女では女性の方が旅行者数は多いのですが、実際出かけた人の回数に男女差はあまり見られませんでした。2000 年から回数を 0.3 回以上下げたのは、20 代女性、40 代男性、回数を上げたのは 19 歳未満の男性と 60 代男性でした(図 1)。

次に実際に海外旅行に出かけた人の数(実質海外旅行者数)の推移を算出しました。過去最高の 1849 万人を記録した 2012 年でも実質海外旅行者数は 1124 万人、実質出国率は 8.8%と、実際に海外旅行を経験している人は 10 人に 1 人にも満たないことが分かります。また 2015 年の実質海外旅行者数は 1039 万人と推計でき、2000年以降、SARSやリーマンショック・燃油サーチャージ高騰という特殊な事情を除くと 1000 万人台後半で、出国率は 8%台で推移していることが分かり、実際にはそれほど多くの人が海外旅行に行っていないと受けとることができます(図 2)。

2.20 代の海外旅行者数、出国率は 20 代は男女とも 2000 年より減少。男性の出国率は全体的に高齢化傾向

2000 年には 20 代女性の出国率は 29.3%ありました。どの世代よりも高い出国率で、海外旅行は 20 代女性がけん引したといえますが、2015 年は 24.8%にまで下がっています。2000 年以降出国者数、出国率共に上昇した世代は 40 代女性で、結婚、子育てを経ているため出国率自体は若い頃より下がるものの、子育てが一段落する時期でもあり、自由になった時間で海外旅行に出かけていると考えられます。彼らは 2000 年前後に 20 代で海外旅行経験が豊富な世代であり、海外旅行への親近感が高いといえます。ビジネス目的が多い男性は、グローバル化が進むと共に、40 代、50 代、60 代の出国率が 2000 年より上がってきています(図 3)。

3.首都圏、大阪圏(京阪神)、名古屋圏以外の県では、2000 年以降、旅行者数も出国率も下がり続ける傾向に

都道府県別の海外旅行者の現状を知るために、過去 2 番目に海外旅行者数の多かった 2000 年と過去最高だった 2012 年の都道府県別出国率を比較してみました。2012 年に出国者数、出国率のいずれかが 2000 年より多かった都道府県は全国で 10 都道府県、うち出国者数、出国率が両方とも上昇したのは 9 都道府県に留まっています(表 1)。日本人海外旅行者の地域別シェアは、2015 年で首都圏、大阪圏(京阪神)、名古屋圏の合計は 64.5%となりました。2000 年から年々大都市部のシェアが高くなり、海外旅行も地域格差が強まっています(図 4)。

<2016 年の旅行者の意向>
4. 2016 年の年間海外旅行者数は 1700 万人と推計。2016 年の観光目的の平均旅行回数の予定は 1.59 回/人
回数が多いのは 20 代、60 代以上の男女。国際情勢は気にしつつも自分の判断で場所を選んで海外旅行へ


2016 年 1 月から 7 月までの累計の日本人海外旅行者数は、日本政府観光局の発表によると 9,338,800 人と前年同期比 4.5%増となりました。8 月は山の日の日並びもよく、お盆期間中の各航空会社の国際線も好調だったこと、為替の動き、先行予約状況などを鑑みると、16 年は 1700 万人(前年比 4.9%増)になると推計できます。
アンケートによると今年の観光目的の海外旅行の回数の意向は全体で、1 回が 59.1%、2 回 24.2%、3 回以上が 16.8%となり、平均回数は 1.59 回/人です。地域別では、一人当たりの回数に大きな差は見られませんでした(図 5)。性年代別では、回数が多いのは 60 歳以上の女性で 1.75 回/人、20 代男性 1.71 回/人、60 歳以上男性 1.66 回/人、20 代女性 1.65 回/人と、20 代 60 代に偏る結果となりました(図 6)。
さらに「例年より回数が減りそう」、「行かない」と答えた人に理由を聞いたところ、全体で最も多かったのは「海外に行くほど長く休めない(35.3%)」、「国内旅行で行きたい場所がある(19.0%)」「旅行先での治安が心配(18.0%)」でした。地域別では大阪圏、その他地域が「長く休めない」が平均より高く、またその他地域で生活費など「他のことにお金がかかる」が高い結果となりました(図 7)。
テロや感染症といった海外の情勢が海外旅行へ行くモチベーションに与える影響を聞いたところ、「テロや感染症が発生したような場所は控える(37.7%)」「情勢を見ながら自分の判断で旅行を決めたい(21.3%)」、「今までどおり気にしないで行く(15.5%)」でした。一方「当分控えたい」は 14.7%で、国際情勢は気にしつつも自分で場所を選んで海外旅行をする人が半数を超えています(図 8)。

5. 仕事の休みは「その他地域(東名大以外)」は不定期の割合が高く、長期休暇はとりにくい

前述で海外旅行に行けない理由は「海外に行くほど長く休めない(35.3%)」が多い結果でしたが、現在の職場での休みについてはどうなのでしょうか。フルタイムの就業者に聞いたところ、休日のしくみは、「カレンダー通り(土日祝日休み)」が全体では 65.7%でしたが、地域別では首都圏の 70.9%がカレンダー通りと答えている一方、その他地域は 60.5%と全体より少なく、不定期(サービス業などで)が多い結果となりました(図 9)。
さらに長期休みについて聞いたところ、全体では「1 年に1回以上 5 日以上連続した休みが取れる(ピーク時)」が 45.0%と最も多く、「1 年に1回以上 5 日以上連続した休みが取れる(好きな時)(23.8%)」と続きました。
地域別では、その他地域が 5 日以上連続した休みが取れる人が全体より少なく、「長期休暇は取りにくい」が高い結果になりました(全体 7.6%、損他地域 10.3%)。長期休みが取りやすい環境かどうかで 2016 年の予定している海外旅行回数を比較してみると、最も回数が多くなったのは、「1 年に 1 回以上、5 日以上連続した休みが自分の好きな時期に取れる」人の 1.85 回でした。「1 年に 1 回以上、5 日以上連続した休みがピーク期、オフ期共に取れる」人も 1.81 回と 2 番目に多くなりました。一方、「5 日間以上連続した休みは取れない」「長期休みは取りにくい」人はそれぞれ 1.42 回、1.23 回と少なく、5 日間以上連続した休みが取れる労働環境にあるかないかは、海外旅行の回数に影響が大きいことがわかります(図 10、11)。不定休が多い地域では職場から推奨されなければ休みをとって海外に行きにくいのかもしれません。

6. 普段から関心あるテーマは「海外旅行関連」、「国内旅行関連」だが地方(東名大以外)は低い傾向
旅のテーマは、首都圏は歴史、世界遺産が高く、名古屋、地方はドライブ旅行、テーマパークが多い


普段どのようなジャンルの情報に興味があるか聞いたところ、全体では「海外旅行関連」が 54.7%、「国内旅行関連」が 53.2%でした。その他地域では、それぞれ、50.9%、52.9%となり、全体より低い傾向が見られます(表 2)。また、旅のテーマにしていることについて聞いたところ、首都圏は、「歴史・史跡」「世界遺産めぐり」が全体より多く、名古屋圏やその他地域では、「ドライブ旅行」や「グルメ旅行」、「テーマパークめぐり」が多い結果となりました(図 12)。地方では、手軽にでかけられることや、世の中で話題になっていることに注目する傾向がみられ、目的をもってテーマを深堀することには価値を感じにくいようです。また、世代の違う家族の同意を得られそうなテーマであり、地方のほうが家族での旅行が多いということも考えられます。

7.海外旅行もウェブ申込みが 56.4%と全国的に定着。その他地域(東名大以外)は、店舗(来店、非来店含む)の役割も高い

直近の海外旅行の申し込み先について聞いてみました。全体ではウェブ申込み(旅行会社のウェブ申込みを含む)が 51.9%と半数以上を占めていますが、その他地域ではウェブ申込みは半数を切り、旅行会社の店舗が来店と非来店をあわせて 39.5%ありました(図 13)。店舗での申込み理由を聞いたところ、その他地域では「旅行商品の細かいことについて質問したかった」、「どんなツアーがお得かを教えてほしかった」や「知り合いの担当者がいるので、全部お任せした」、が全体より多く、一方で、「インターネットではなく店舗で支払いがしたかった」は、全体より少なくなりました(図 14)。
また海外旅行を申し込んだ会社をみると、全体では「旅行会社」が最も多く 51.7%。「航空会社(13.0%)」「オンライン旅行会社(9.5%)」が続きました。地域別では首都圏で「航空会社」や「オンライン旅行会社」の割合が高い傾向が見られ、その他地域では「旅行会社」の割合が全体と比較して 3.1 ポイント高くなりました。
地域においては、旅行の手続きよりも自分に合った情報やサービスを受けられる場として旅行会社の役割も高いと言えます。

8.海外の観光地から学べること:街の景観を壊さない工夫や観光客の受け入れ体制、交通機関の利便性やアイディアなど

過去のタイや中国などの訪日外国人旅行者への調査結果をみると、日本へ訪れた旅行者が旅行先を決める際、ヨーロッパやアメリカなどアジア以外の国と日本とを比較検討している場合が少なくないことがわかっています。訪日外国人旅行者の誘致をさらに目指す中、魅力的な旅行先として世界中の旅行者から日本を選んでもらうためには何ができるのでしょうか。今回の調査では、日本人が海外旅行をした際に「海外の観光地から学べると思ったこと」を自由に回答してもらい、日本の観光地でも応用できることがないかどうか、ヒントを探りました。
その結果、全回答 2578 件のうち、最も多かったのは「街の景観を壊さない工夫(27.4%)」についての意見でした。2 位以下には「観光の環境整備(清掃、住民の親近感など)(12.8%)」「交通機関の利便性やアイディア(5.1%)」「言葉の通じやすさ(4.3%)」が続きました(図 16)。
具体的な意見としては、「街の景観を壊さない工夫」では、電柱や電線の地中化、屋根や建物の色の統一、車の乗り入れ禁止など、インフラ整備や制度への意見が多く見られ、「観光客を受け入れる体制」については、ビーチの清掃や観光地のトイレのきれいさなどに加え、街の人が観光客を受け入れる姿勢(声掛けなどさりげなく歓迎する雰囲気など)があげられました。
国別にくわしくみると、スイスでは荷物を目的地まで運んでもらえて楽に観光ができるなど交通機関の工夫、アメリカでは、国立公園などで人工物を排除し、自然景観を壊さない工夫がされていることやバリアフリーが徹底していること、フランスでは美術館や博物館で自由に写真撮影ができること、台湾では夜市など夜の時間帯に楽しめる魅力があること、などの意見がみられました(表 3)。
いずれの意見も日本の観光地でも、旅行者の満足度を上げるためのヒントとなりそうです。


【調査概要】
・調査方法:インターネットアンケート調査
・スクリーニング調査対象者:全国に居住する15~79歳の男女 40,000人へのインターネットアンケート調査
・本調査:対象者スクリーニング調査対象者の中で、2014年1月以降に海外旅行(ビジネス、観光問わず)をした経験者3,399名
・調査期間2016年5月16日~5月20日

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