2016年の海外旅行についての緊急調査 

2016年06月10日
JTB総合研究所は、「2016年の海外旅行についての緊急調査」を実施しました。当社は生活者の消費行動と旅行に関する調査分析を継続的に行っています。

日本の海外旅行市場は、経済成長とプラザ合意以降の円高を背景に80年代後半から右肩上がりで推移しました。しかし2000年を境に出国者数は頭打ちとなり、2012年は過去最高人数を更新したものの、翌年以降は国際情勢や感染症の発生、円安などの影響もあり再び低迷が続いていました。

2016年に入ってから動きは一転し、4か月連続で対前年比増となりました。その一方で主要旅行会社のパッケージ商品の取扱人数は連続して前年割れの状態です。海外旅行市場が動いたきっかけは何なのか、どのような人々が旅行をしているのか、緊急調査結果から探ります。

【調査結果サマリー】

〇 今年の海外旅行は 29 歳以下男女と 60 歳以上女性がけん引

〇 観光旅行の約半数をアジアが占め、個人旅行と航空会社の直販が伸びる

〇 熟年層こそウェブが主流。むしろ若年層が店舗を利用する傾向

〇 瞬時に心を動かすプッシュ型の画像情報が“旅情”を喚起


【調査結果】

【2016 年 1 月~5 月における海外観光旅行の特徴】
本調査からビジネス旅行を除く、観光旅行、家族親族訪問、新婚旅行などで動き始めた若年層および 60 代女性を中心に、2016 年 1 月~5 月現在まで海外旅行をした人の傾向を探ってみました。

1. 行先は 「アジア」の割合が大きく伸びる(2015 年との比較)
15~29 歳女性は欧州や韓国とハワイ、15~29 歳男性は台湾、60 歳以上女性は欧州とその他アジアの割合が高い


2016 年 1~5 月における主な海外旅行先はアジアで約半数を占め、前年から大きくシェアを伸ばしました。欧州は前年より減少して 15.0%でした。国別では、特に韓国やタイの上昇が顕著です。
性年齢別にみると、欧州、韓国は全体的に女性の人気が高くなりました。欧州は 60 歳以上の女性(23.0%)が最も多く、30 代女性(20.7%%)、60 歳以上男性(18.6%)と続きました。ハワイは 50 代女性(18.8%)、15~29 歳女性(16.5%)、韓国は 30 代女性(19.5%)が高くなりました。一方、台湾は 15~29 歳男性(14.2%)の割合が最も高い結果でした。

2. 海外観光旅行先を選んだ理由:「ずっと行ってみたい場所だった(33.3%)」「好きで繰り返し行っている場所(27.1%)」「価格が安かった(23.2%)」がトップ3
15~29 歳男性は、「友達に行ったことを自慢できる場所」や「SNS やブログでのおすすめ」であることも重視


海外観光旅行先を選んだ理由としては、全体では「ずっと行ってみたい場所だった(33.3%)」「好きで繰り返し行っている場所(27.1%)」「価格が安かった(23.2%)」が上位となりました。「ずっと行ってみたい場所だった」は、特に 15~29 歳女性、30 代女性、60 代女性が高く、「好きで繰り返し行っている場所」は 40 代、50 代、60 歳以上男性で高くなりました。女性はどこか新しい場所を開拓しようとするのに対し、男性は気に入った場所にリピートする傾向があるのかもしれません。「価格が安かった」は、比較的若い世代で高い傾向が見られます。また、割合は高くはないものの、全世代との比較でみると 15~29 歳男女で「友達に行ったことを自慢できる」「SNS やブログの記事でおすすめだった」がきっかけとなる傾向が見られました(図 10)。当社の「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査(2015)」(*1)でも SNS が旅行のきっかけとなっていることが明らかとなっていますが、SNS だけでなく、スマートフォンを通じて提供されるプッシュ型の画像情報の増加が旅行意欲を刺激している可能性があると考えられます。

3. 旅行の形態はフリープランのパッケージツアーが最も多い。2015 年と比較すると「個人でホテルや飛行機を予約していく個人旅行(FIT)」の割合が高まる

旅行の形態をみると、「フリープラン・自由行動タイプのパッケージツアー」(以下フリープラン)が 38.9%と最も高く、次いで「個人で航空券やホテルを別々のサイトや店舗で予約購入した旅行」(以下 FIT)の 21.2%でした。2015 年と比較すると、フリープランの割合が減少し、FIT が増加しています。性年齢別にみると、年が若いほどフリープランの比率が高く、男性の 40 代、50 代、女性の 30 代、40 代、は FIT の割合が高くなり、男女ともに 60 歳以上では添乗員付きのパッケージツアーの割合が上昇します(図 11、12)。

4. 旅行の予約や購入はウエブが主流で、さらに比率が高まる傾向に
全体では、ウエブサイトでの旅行申込みが 69.1%と 7 割近くを占め、2015 年の 57.7%より大きく増加
旅行会社店舗(来店)での申し込みは 15~29 才女性が 33.9%と 3 割を超える。60 歳以上女性は 11.5%に留まる


2016 年の旅行の申し込み先をみると、ウエブサイトでの申し込みが 69.1%と 7 割近くを占め、前年から 10ポイント以上増加しています。インターネット調査の結果という点を考慮しても、ウエブサイトで旅行を申し込むことがごく一般的なことになっています。店舗で申し込む割合は、性年齢別では、15~29 歳女性が 33.9%と最も高く、15~29 歳男性も比較的高く 23.6%となりました。60 歳以上の女性は 11.5%と最も低くなりました。
店舗での申込み割合が高い 15~29 歳はなぜ店舗で申し込んでいるのか、理由をくわしく見てみると、女性は「旅行商品の細かいことについて質問したかった」「現地でどんなことができるか相談に乗ってほしかった」などが上位となりました。男性では「どんな旅行がお得か教えてほしかった」「現地でどんなことができるか相談に乗ってほしかった」「インターネットではなく店舗で支払いがしたかった」が高くなりました。女性と比較して、「知り合いの担当者がいるので全部お任せした」が高いのも興味深い点です。
旅行会社店舗では熟年世代が申し込み、若者世代は自分達でウエブ申込みをするようなイメージが強いかもしれませんが、熟年層も変化しています。ポスト団塊世代が 60 歳以上になってきていること、また、旅行経験が豊富でインターネットにも慣れている熟年層はウエブで手軽に申し込む人も多く、むしろ旅行経験が浅い若い層で「旅行会社の店舗で相談したい」「お任せしたい」という気持ちが強いのではないでしょうか(図 13~図 15)。

5. 旅行を申し込んだ会社は、オンライン旅行会社、航空会社直販が伸び、旅行会社の申し込みは減少
旅行会社での申し込みが多いのは、15~29 歳の男女
オンライン旅行会社の利用が多いのは男性 50 代、女性 30 代。航空会社利用が多いのは男女共に 40 代


次に旅行を申し込んだ会社について聞いてみたところ、2015 年と比較してオンライン旅行会社と航空会社の割合が高まり、旅行会社の比率は減少しました。LCC の普及で個人旅行が拡大していると考えられます。性年齢別にみると、オンライン旅行会社は男性の 50 代、女性 30 代、航空会社利用が多いのは男女共に 40 代でした。
また、申し込みをした旅行会社別にウエブサイトと店舗での申込みの割合を見てみると、ウエブ申込みが 6 割以上ある会社や、ウエブサイトと店舗での申込み割合がそれぞれ半数となっている会社があります。いずれも前年の申し込みと比較すると、ウエブサイトでの申込み割合が上昇する傾向が見られました(図 16~図 18)。

6. 【2016 年に入り復調傾向に転じた韓国への旅行者とは?】
性年齢別では 15~29 歳女性の割合が高く、居住地別では、東名大以外の「その他地域」の割合が高い
2016 年に韓国へ旅行した理由の1位は「好きで繰り返し行っている場所だった(韓国 39.0%、全方面 24.5%)」。
「価格が安かった(韓国 22.7%、全方面 21.0%)」 が続く 図 19 訪韓日本人旅行者の推移 (対前年比%)


韓国を訪問する日本人出国者数は、2012 年に 351.8 万人と過去最高となって以来 2013 年~2015 年まで減少し、183.7 万人まで落ち込みました。しかしながら 2016 年に入ってから復調の兆しが見られます(図 19)。本調査から 2016 年に韓国旅行に行った人を性年齢別にみると、15~29 歳女性の割合が 27.3%と 1/4 以上を占めました。旅行に行った理由では、「好きで繰り返し行っている場所」が 39.0%で全体の 24.5%を大きく上回りました。きっかけは「コンサートやイベントに参加したかった」が全体より高い傾向が見られたことから、韓国の文化や芸術に対する固定的なファンの存在が後押ししたと考えられます。同行者は友人や自分一人での割合が高く、居住地別にみると東名大以外の地域の割合が高くなりました。地域の空港から韓国へ就航している路線も多いことから、地域の割合が高まったものと考えられます(図 20~図 24)。

【ビジネス旅行の現状】
7. 2016 年の海外ビジネス旅行は、中国、韓国、タイなどアジア方面が増加(2015 年との比較)


海外旅行の目的は前述のとおり、業務出張やビジネス関連旅行も 2015 年と比較して伸びが見られます。直近の海外ビジネス旅行の主な行先をみると、中国や韓国などのアジア方面が伸びています。またフランスも若干ですが増加しています。最近の海外ビジネス旅行先の変化について聞いた設問では、「アジア方面が増えた(40.5%)」に次いで「欧州方面が増えた(11.9%)」となりました。アジア方面の伸びと共に、欧州方面も根強い需要がありそうです。一方、「テレビ会議が増えて出張が減った」は 2.2%に留まりました。2016 年のビジネス旅行頻度の見込みとしては、51.2%が例年並みと回答し、23.9%が増えると回答しています。テレビ会議などでコストを抑えつつも、グローバルなビジネスが拡大する中、実際にビジネスパートナーと会ってコミュニケーションを取り事業を円滑に進めることも重要視されているのかもしれません(図 25~図 28)。

8. 2016 年に海外旅行へ行った人はどんなタイプ?価値観別マーケティング(TLS5)での分析

当社が開発したライフスタイルや旅行への意向などから旅行者を 5 つの価値観にもとづくタイプに分けた「旅ライフセグメント 5」を用い、2016 年に海外旅行へ行った人と、2015 年に海外旅行へ行った人のタイプを比較してみました。2016 年の割合が高くなっているのは、「共感型(34.4%)」「高アンテナ(13.8%)」と「体験重視(12.4%)」タイプでした。高アンテナと体験重視は旅行に関して感度が高いイノベーター層、共感型はフォロワー層への影響力が強いアーリーアダプター層です(表1)。円安や燃油サーチャージ 0 円を受けて、いち早く動いたのがこれらの層と言えるでしょう。
これまでの当社の研究結果から、新しい商品やサービスが普及する際には、まずイノベーターである「高アンテナ」タイプが動き始め、その動きをとらえ、アーリーアダプターである「共感」タイプが拡散することがわかっています。2016 年は高アンテナから共感タイプまでの利用が広がっている様子が明らかとなりましたので、今後はフォロワー層である合理派やメリハリ消費タイプへと波及することが期待されます。
2016 年に旅行(観光、ビジネス含む)をしたきっかけとしては、「家族や友人などに誘われた(27.2%)」「仕事が休めた(20.3%)」「世界の絶景など知らなかったところの情報を見て(14.7%)」が上位でした。「家族や友人などに誘われた」は特に高アンテナタイプで高くなりました。普段から旅行に詳しい人と見られているため、海外旅行へ行く時には頼られる存在なのかもしれません。
行先別のトップ 15 をみると、共感型はハワイや韓国、グアム/サイパンという失敗が少ない定番型の行先を好み、高アンテナは台湾、アメリカ、タイ、イタリアなど、自分なりの深掘りが可能な旅行先を好むようです。体験重視は韓国、タイ、その他ヨーロッパの割合が高くなりました。これは、歴史や文化的背景があり、知的好奇心を満たすような場所を選ぶためと考えられます。
旅行形態は、共感型でフリープランの割合が高く、高アンテナと体験重視は FIT が高い傾向が見られます(図29~図 31、参考図表)。


【調査概要】
・調査方法:インターネットアンケート調査
・スクリーニング調査対象者:全国に居住する 15~79 歳の男女 40,000 人へのインターネットアンケート調査(うち、2016 年 1~5 月の海外旅行経験者は 2,743 名)
・本調査対象者:スクリーニング調査対象者の中で、2014 年 1 月以降に海外旅行(ビジネス、観光問わず)をした経験者 3,399 名(うち、2016 年 1~5 月の海外観光旅行経験者は 1,157 名、海外ビジネス旅行経験者は 192 名)
・調査期間:2016 年 5 月 16 日~5 月 20 日

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