2015年度大学院生の研究・生活実態に関するアンケート調査 

2015年11月01日
全国大学院生協議会は、「2015年度大学院生の研究・生活実態に関するアンケート調査」の報告書概要版を発表。

本アンケート調査は、大学院生の経済実態を客観的に把握し、もって大学院生の研究及び生活諸条件の向上に資することを目的として行っております。2004年度より毎年行っており、今年は12回めにあたります。
今年は過去最高となる、118国公私立大学・1051人からの回答を頂きました。本報告書概要版は、アンケート調査の要所となる事項についてまとめたものです。大学院生の奨学金・アルバイト・学費の実態、そしてそれらが大学院生にもたらしている精神的負担について明らかにしています。

【調査結果】

1. 多くの大学院生がアルバイトに追われ、研究に支障を感じている

■大学院生の3人に1人が、週10時間以上のアルバイトに追われている

大学院生の経済的実態を端的に表しているのが、アルバイトの実態である。高い学費と乏しい奨学金の中、多くの大学院生がアルバイトに従事し、生活費や研究費、学費をまかなっている。
大学院生全体の69.0%が何らかのアルバイトに従事していた(RA 、非常勤講師を含む。図1)。たとえRA、非常勤講師を除いても、アルバイトに従事する大学院生の割合は60.5% と非常に高く、3人に2人の大学院生がアルバイトをしていることが明らかになった。
また、一週間あたりの、従事しているアルバイトの時間を図2に示す。アルバイトに従事する大学院生の51.7%が、週に10時間以上働いていると回答した。実に、大学院生の3人に1人が週10時間以上のアルバイトを行っている計算である。

■大学院生の4人に1人が、アルバイトが原因で研究時間を確保できていない

アルバイトの負担は、大学院生が研究を進める上での大きな障害となっている。
「研究時間は充分に確保できていますか、もし確保できていない場合、その要因を教えて下さい。」という質問に対して、「研究時間は十分に確保できている」という回答は41.3%にとどまった。図3に示す通り、アルバイトによって研究時間が確保できていないという回答が多く、大学院生全体の27.5%に上った。大学院生の4人に1人以上が、アルバイトによって研究時間を確保できていないと感じているのである。
自由記述からも、「生活費や学費に関しまして、現在奨学金とRA、アルバイトによりすべてまかなっております。アルバイトは日曜日にのみ行っています。研究は月曜から土曜日の午前9時から夜中の12時まで行っているため、全く休みのない生活が数年間続いております。精神的にも肉体的にも困難な状態が続いております。」(D1、男性、私立大学)といった声が寄せられた。

■大学院生は授業料や生活費のために、やむを得ずアルバイトに従事する

アルバイトについては、大学院生が大学での研究を継続するためにやむなく従事している場合が多い。一例として、学外のアルバイトの目的を図4に示す。91.5%が、「生活費・学費・研究費をまかなうため」と回答しているのである。
また、収入の不足や学費の負担が研究に与える影響について、図5に示す。「影響はない」は34.3%であり、65.7%は何らかの影響を受けていると回答した。具体的な内容としては、「アルバイト・TA をしなくてはならない」が40.1%、「研究の資料・書籍を購入できない」が36.9%と続く。「授業料が払えない・滞納したことがある」という回答も8.4%あった。多くの大学院生が、授業料や研究費を支払えないということと、アルバイトによって研究時間を割かれるということのトレードオフに直面している。

2. 学費負担は重く、大学院生は奨学金の借金を背負っている

■授業料減免は未だに乏しく、大学院生は多額の授業料を支払っている

日本は先進諸国の中でも学費負担が極めて重い。設置形態別の負担している学費の額を、図6に示す。国公立大学共に「60万円未満」が最も多く、これは国立大学授業料標準額が535,800円であることを鑑みると妥当である。私立大学において学費の重さは特に顕著であり、半数近くの46.6%が、年60万円以上の学費を支払っている。

■大学院生の半数が奨学金を借入し、その4人に1人が500万円以上の借金

今、半数以上の大学院生が学生支援機構の奨学金を利用している。しかしその全てが貸与型、それも多くが有利子のローンである。
今回の調査では、65.0%が(給付型・貸与型問わず)奨学金の利用経験があり、50.2%が「貸与型奨学金を利用している・利用したことがあり、今後奨学金の返済がある」と回答していた(以下、奨学金借入者と記す)。奨学金借入者の借入総額を、図7に示す。半数近くの49.5%が300万円以上の借入をしていた上、4人に1人の25.3%が500万円以上の借入を、10人に1人以上の12.6%が700万円以上の借金をしていた。また、1000万円以上の借入をしている院生も2.6%おり、大学院生の借金の重さが伺える。
自由記述からも、「仮に奨学金を借りられたとしても、そのために進学を諦める学生は、私の身の回りには少なくない。日本の大学はあまりに学費が高すぎると思う。なぜこんなにも高いのか意味がわからない。どの学問分野でも、金銭的、時間的余裕がなければ充実した研究は不可能なのではないか。あるいは学問そのものを潰そうとするのが行政の態度なのかと感じる。」(M1、男性、私立大学)といった声が上げられている。

■借金が増えることを避けるために、奨学金を借りずにアルバイトに従事する

大学院生にとって、借金を背負うことは当然大きな精神的負担を伴う。自由記述において「親は、借金をこれ以上増やしてはいけないと奨学金を借りることを反対してくる。」(M2、女性、国立大学)という声が寄せられるように、奨学金の借入を避けようとする傾向は、大学院生に広く見られている。
表1に、授業料・研究費・生活費の負担主体を示す。特に研究費、生活費については「アルバイト」の回答数が「奨学金」の回答数を上回っている。これは、多くの大学院生が、たとえアルバイトに研究時間を削られてでも、奨学金の借入を避けていることを示している。貸与型奨学金が、大学院生の経済支援策として根本的に不十分であることを表しているだろう。

3. 大学院生の精神的負担は極めて重い

■学年が進むごとに借金が重なり、多くの大学院生が返済に不安を抱いている

以上までで示したような奨学金という名の重い借金は、大学院生に大きな不安感をもたらしている。図8に表れているように、奨学金借入経験者の84.6%が、返済への不安について「かなりある」または「多少ある」と回答した。これは、過去のアンケートと比較して最も大きい数値である(2012年:81.70%、2013年:80.4%、2014年:74.7%)。また、修士課程・博士課程・それ以上と進むにつれ、不安が増大している様子も読み取れる。
また、図9に表れているように、借入額が大きくなるほど返済への不安もまた大きくなる。700万円以上の借入をしている大学院生の、93.7%が返済に不安を感じている。大学院生が、社会に出る前に大きな借金を背負うことの、心理的負担の重さを示しているだろう。

■研究の見通しだけでなく、経済的問題、就職難に不安を抱いている

大学院生活での研究・生活上の懸念について、図10に示す。「研究の見通し」(65.7%)につづいて、「生活費・研究費の工面」(63.4%)、「就職状況」(61.7%)となっている。また「授業料の工面」「奨学金の返済」の回答がそれぞれ35.5%と33.1%であったことも鑑みると、経済的困窮が大学院生にとって大きな懸念事項となっていることが示されている。当然奨学金という借金を背負っていることは今後の人生そのものについて不安を感じることもあり、そういった背景からも「人生設計(結婚・出産・育児など)」が50.0%と高くなっている。自由記述からも、奨学金借入額が800万円以上の大学院生から、「貸与額が大きいので将来に不安を感じるから自己破産してしまいたい。日々、現状と将来を悲観し自殺を考えている。」(D2、女性、国立大学)といった声が寄せられた。

■大学改革の中での競争主義・業績主義を、大学院生も実感している

「成果主義・業績主義的などからくる、自身の将来に対する精神的負担 ・不安を感じていますか。」という質問に対する、課程別の回答を図11に示す。
「強く感じている」、または「多少感じている」と回答した大学院生は全体で73.6%に上る。そのうち「強く感じている」が37.5%と最も高い比率を占めている。これは過去のアンケートと比較して、明らかに高い値である(2012年度=29.2%、2013年度=30.9%、2014年度=28.8%)。今、文系廃止通知や軍学共同、削減される国立大学運営費交付金など大学改革が叫ばれる中で、大学院生も成果主義・業績主義の流れを実感していることが示唆されている。
自由記述からも「学振 を代表とする学問における成果主義の風潮は、大学院生のレベルを目に見えるレベルで低下させているように思えます。産官学の連携などと耳触りの良い言葉で学問の領域を踏みにじることへの反省のない風潮には憤りを感じます。(中略)職を得ても、成果主義の風潮のために、研究に専念することは難しいでしょう。その点が最も不安です。」(D1、女性、国立大学)といった、行き過ぎた競争・成果主義を危惧するような声が寄せられた。

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[全国大学院生協議会]
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