中小企業の海外進出に対する意識調査 

2015年04月02日
商工中金は、中小企業の海外進出に対する意識調査を実施。

【調査結果の要旨】

1.海外進出の状況
・現在、海外進出を行っている企業は全体の 1 割強。進出実績なく今後の予定もなし、とする企業が全体の7 割強を占める。

2.海外進出を行う理由
・中小企業が海外進出を行う理由は、拡大する海外市場を取り込むための積極的な理由が中心となっている。特に、今後海外進出を予定している企業は、その傾向が強い。
・円安が海外進出の判断に与える影響については、「為替相場を理由として海外進出の判断は行っていない」とする回答が約 6 割を占めた。

3.進出国、進出予定国
・現在の進出国は中国が最も多く、かつ重要度が最も高い国である。今後の進出予定国としては、ベトナムが最も注目度が高い。
・現在の主な進出国における当初および現在の進出目的は、日本あるいは現地の日系サプライチェーンへの生産・販売が中心となっている。しかし、今後の進出目的としては、現地の市場へ向けた生産・販売が中心となる。

4.海外進出を行わない理由
・中小企業が海外進出を行わない理由は、国内事業で事業継続が可能と判断している理由が最も多い。
・2 年半前の調査と比べると、人材確保の難しさを理由に挙げる割合が増えている。特に、海外進出を行う能力のある人材が確保できないなど、「質」的な人手不足が目立っている。

【調査結果】

1. 海外進出の状況

海外進出の現状と今後の予定を見ると、全産業では全体の 11.7%が「進出実績あり」と回答し、「進出実績はないが、今後進出の予定(以降、「今後進出予定」)」は1.8%であった。「進出実績あり」の回答割合は、製造業は 19.8%、非製造業は 7.0%となった。「今後進出予定」の回答割合は、製造業は 1.9%、非製造業は1.8%と概ね同程度であった。「進出実績はあったが、現在は撤退(以降、「現在撤退」)」の回答割合は、製造業は 3.9%、非製造業は 1.8%と、製造業の方がやや回答割合が高かった。これらの結果は、2012 年 7 月に同じ設問で実施した調査結果と比較して、大きな違いはなかった。

「進出実績あり」の回答割合を業種別に比較すると、精密機械(43.9%)、電気機器(29.9%)、輸送用機器(26.5%)、一般機械(24.6%)、繊維(20.4%)など、主に機械製造業が高くなっている。非製造業では、情報通信業(17.1%)、卸売業(15.1%)が高くなっている。
「進出実績あり」および「今後進出予定」と回答した企業の構成比を比較すると、「今後進出予定」と回答する企業は非製造業の方が多かった。非製造業の中では、卸売業が最も多い。
このほか、企業規模が大きいほど「進出実績あり」と「今後進出予定」の回答割合は高くなっている。

「進出実績あり」および「現在撤退」と回答した企業に対する、「現在撤退」回答企業の比率を業種別で比較すると、サービス業(45.0%)や化学(31.0%)などで比率が高くなっている。一方、輸送用機器(4.3%)や食料品(9.1%)は低い。なお、企業規模別の比較では、大きな違いは見られなかった。

2. 海外進出を行う理由

2-1.海外進出を行う理由

「進出実績あり」または「今後進出予定」「現在撤退」と回答した企業を対象に、海外進出を行う(行う予定、行っていた)理由を尋ねた。
海外進出を行う理由としては、「海外市場の拡大が今後期待できるため」(全産業52.2%)が最も多く、「安い人件費等を活用したコストダウンのため」(同 33.3%)が続く(図表 2-1)。一方、「為替変動の影響を回避するため」(同 3.5%)は極めて少ない結果となった。
さらに、これらの理由のうち、最も重要度の高いものはどれか尋ねたところ、「海外市場の拡大が今後期待できるため」が全体の約 4 割を占めた。なお、製造業・非製造業別では、大きな差はなかった。
海外進出状況別に比較すると、「今後進出予定」と回答した企業は、進出予定の理由を「海外市場の拡大が今後期待できるため」や「日本国内の市場が今後縮小すると見込まれるため」と回答する割合が高くなり、「安い人件費等を活用したコストダウンのため」は低下している。

2-2.円安が海外進出の判断に与える影響

「進出実績あり」または「今後進出予定」「現在撤退」と回答した企業を対象に、円安が海外進出の判断に与える影響を尋ねた。
「海外進出は業務上必要であり、為替相場を理由として海外進出の判断は行っていない」とする回答が全体の約 6 割を占め、最も多かった。さらに、「円安によりコストアップする場合は海外進出の見直しを行いたいが、その他の事情により海外進出の判断は変えられない」とした回答を加えると、全体の約 7 割の企業が、海外進出の判断に円安は影響していないと回答した。
また、最重要と考える海外進出の理由別に比較すると、海外市場の拡大や国内市場の縮小、国内取引先の海外移転を理由として挙げた企業は、「為替相場を理由として海外進出の判断を行っていない」が圧倒的に多い。為替変動回避を理由として挙げた企業は、円安進行により投資を諦めるまたは縮小するとしているものの、図表 2-1 のとおり為替変動回避を最重要と考える企業は極めて少ない点は注意が必要である。
なお、設問の趣旨が若干異なるが、2012 年 7 月調査で尋ねた「海外進出企業の海外投資方針に対する円高の影響」を見ても、円高の如何に関わらず投資方針が決められていることが分かる。

以上、中小企業が海外進出を行う理由をまとめると、拡大する海外市場を積極的に取り込むことが業務上必要であるために行っている、という積極的な理由が中心となっている。特に、今後海外進出を予定している企業は、国内取引先の海外移転やコストダウン目的、為替相場の動向を、その主たる判断材料としていないと考えられる。

3. 進出国、進出予定国

3-1.進出国、進出予定国の分布

「進出実績あり」または「今後進出予定」と回答した企業を対象に、進出している国および今後進出を予定している国を尋ねた。
現在進出している国(以下、進出国)で最も多いのは「中国」(61.4%、製造業・非製造業計。以下同。)であり、「タイ」(23.4%)、「台湾」(15.9%)、「ベトナム」(15.2%)と続く(図表 3-1)。今後進出を予定している国(以下、進出予定国)で最も多いのは「ベトナム」(40.7%)であり、「タイ」(23.1%)、「インドネシア」(19.8%)、「中国」(17.0%)と続く。また、進出国では少数派であるミャンマーが、進出予定国では上位に挙げられている。
進出国における各国の製造業・非製造業の構成比を進出国の全体平均と比較すると、タイやフィリピン、米国では製造業の構成比が全体平均よりも大きく、韓国やシンガポール、マレーシア、ベトナムでは非製造業の構成比が全体平均よりも大きい。進出予定国の中では、タイやフィリピン、インドで製造業の構成比が進出予定国の全体平均よりも大きく、香港は非製造業の構成比が全体平均よりも大きい。

進出国・進出予定国の両方で上位に挙げられている中国・タイ・インドネシア・ベトナムのアジア 4 カ国について、海外進出の理由を比較した。4 カ国共通の傾向として、「海外市場の拡大」や「国内市場の縮小」は、現在進出している理由よりも今後の進出理由として多く挙げられている。反対に、「コストダウン」や「国内取引先の海外進出」の理由は減少している。

4 カ国の詳細を見ていくと、中国とベトナムは、現在の進出国では「コストダウン」が最も回答割合が高いが、今後の進出予定国では「海外市場の拡大」が最も高くなる。タイとインドネシアは、進出国・進出予定国とも「海外市場の拡大」の回答割合が最も高い。
さらに、進出国、進出予定国について、どの国の重要度が高いと考えているかを尋ねた。重要度第 1 位の国は、進出国では「中国」(47.2%)が最も多く、進出予定国では「ベトナム」(21.5%)が最も多い。進出予定国の重要度第 1 位として挙げられた国は、顕著に多い国はなく、かなり分散した結果となった。

3-2.進出国に対する目的、評価、今後の方針

重要度第 1 位の進出国として回答割合の高い上位 5 カ国(中国、タイ、米国、ベトナム、インドネシア)に対して、当初の進出目的や現在の進出目的、現在の評価、今後の方針を尋ねた。
当初の進出目的と現在の進出目的を見ると、大きく 3 つのグループに分けられる。中国とベトナムは、「日本向けに生産・販売」の理由が最も多い。タイとインドネシアは、「現地の日系企業向けに生産・販売」が最も多い。米国は、「現地の市場向けに生産・販売」が最も多い。中国とベトナムは日本向けの生産拠点として、タイとインドネシアは現地の日系企業のサプライチェーンに組み込まれる形で進出していることが多いことが窺える。

これらの国について、現在の評価を尋ねた。どの国も、「成功している」が半数を超えている。中国やベトナムがやや多いものの、概ね 60%前後となっている。「成功していない」は 10~15%程度であり、少数派となっている。

更に、これらの国について、今後の方針を尋ねた。中国は「拡大」が少なく「現状維持」が約半数を占めているが、その他の国は「拡大」が半数近くを占める。なお、「撤退または第三国(地域)へ移転」の回答は、5 カ国では中国のみ回答があった。ただし、中国は進出企業の数が他国に比べ圧倒的に多い点は、注意が必要である。

3-3.進出予定国に対する目的

重要度第 1 位の進出予定国として回答割合の高い上位 4 カ国(ベトナム、タイ、中国、インドネシア)に対して、その進出目的を尋ねた。「現地の市場向けに生産・販売」が最も回答割合が高い。ただし、ベトナムとインドネシアは、「日本向けに生産・販売」と「現地の日系企業向けに生産・販売」が合わせて 4 割程度を占めており、生産拠点としての期待も一定程度続くと考えられる。
進出予定国上位に挙げられたミャンマーは、その進出目的まで回答を得られたものは少なかった。ミャンマーに対しては、興味はあるものの、具体的な目的や計画は見えていない状況であると考えられる。

以上、主な進出国・進出予定国の状況をまとめると、現在は日本あるいは現地の日系企業のサプライチェーン向けに生産・販売を行っているものが中心であるが、今後は現地の市場向けに生産・販売を行う目的が中心となる。
主な国別にまとめると、中国は現在の進出国で最も多く、かつ重要度も高い。現在はまだ日本向けの生産拠点としての機能が強いものの、今後は現地の市場向けの生産・販売を目的とした進出が期待される。また、現在中国に進出している企業の今後の方針では、他主要国に比べ「拡大」を目指す割合は低く、また「撤退または第三国(地域)へ移転」を考えている企業もあった。
ベトナムは、今後の進出予定国として最も注目されている。現在の進出目的は、中国と同じく日本向けの生産・販売が中心となっている。今後の進出目的は、現地の市場向けの生産・販売が最も多くなるものの、日本および現地日系サプライチェーンに向けた生産・販売も一定程度は維持される。
タイとインドネシアは、現在は現地の日系企業向けに生産・販売することが主な目的であるが、今後は中国やベトナム同様、現地の市場向けの生産・販売が中心となる。インドネシアへの今後の進出目的は、ベトナムと同様、日本および現地日系サプライチェーンに向けた生産・販売も一定程度は維持される。
この他、今後の進出予定国としてはミャンマーに注目が集まっているものの、その具体的な進出目的まで検討している企業は少ない。

4. 海外進出を行わない理由

「進出実績なく、今後の進出の予定は未定」または「進出実績なく、今後の進出の予定もなし」と回答した企業を対象に、海外進出を行わない理由を尋ねた。
「現状程度の国内需要で事業の継続が可能」が 66.0%と最も回答割合が高い。この他、「国内での雇用維持を優先させたい」(18.9%)、「海外事業立ち上げのための人材が不足」(18.0%)、「国内の需要掘り起こしで収益の確保ないし拡大が可能」(17.3%)が続く。これらの結果は、多少の回答割合の変化はあるものの、総じて 2012年 7 月調査における同設問の結果と変わりない。
2012 年 7 月調査と比べると、「質的に人材確保の見通しが立たない」(9.3%→15.3%)や「量的に人材確保の見通しが立たない」(3.8%→7.1%)など、人材確保の難しさを理由とする割合が高まった。また、「販売見通しが採算ラインに届かない」(7.0→10.4%)の割合も高まっている。一方、「資金不足」(12.5%→9.8%)の回答割合は下がっている。

「進出実績なく、今後の進出の予定は未定」と回答した企業と、「進出実績なく、今後の進出の予定もなし」と回答した企業では、海外進出を行わない理由に違いがあるのだろうか。両者を分けて比較した。
「今後の予定はなし」とした企業は、「現状程度の国内需要で事業の継続が可能」とする理由が圧倒的に多いが、「今後の予定は未定」とした企業は、その理由が分散している。特に、「今後の予定は未定」とした企業は、「海外事業立ち上げのための人材が不足」や「事業環境や制度面の情報が不足」の回答割合が、「今後の予定はなし」とする企業よりも高くなっている。国内事業で人手不足がボトルネックとなる中で、海外進出のための人材確保も困難になりつつある。もっとも、海外進出のための人手不足は、人手の数が足りないというよりも、海外進出を行う能力のある人材が確保できないなど、「質」的な人手不足の意味合いが強いと考えられる。中小企業の海外進出を後押しするためには、このような観点からの施策や情報提供が有効であろう。

以上、海外進出を行わない理由をまとめると、「海外進出の予定なし」とする企業は、現状の国内事業で事業継続が可能であると考え、海外進出を検討していない。「海外進出の予定は未定」とする企業も、同じく国内事業で事業継続可能と考えているものの、人材・情報の不足などの理由により今後の方針を決めかねている企業が多い。今後、「海外進出の予定は未定」と考える中小企業が海外進出を前向きに検討するようになるには、人材・情報が十分に確保できる仕組み作りが必要となってくるだろう。


【調査概要】
・調査目的:海外進出に対する意識調査
・調査時点:平成 27 年 1 月 1 日時点
・調査対象先:当金庫取引先中小企業 9,073 社、有効回答数 4,079 社(回収率 45.0%)
 ◇ここでいう中小企業とは、いわゆる「中小会社」(会社法第 2 条 6 号に規定する「大会社」以外の会社)、または法定中小企業(中小企業基本法第 2条に規定する中小企業者)、のいずれかに該当する非上場企業。
・調査方法 調査票によるアンケート調査(郵送自記入方式)

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